詩人の日曜日
モーヌ。




病窓の 最後の 一枚の 葉っぱ

とは ちがう 美しい まだらな 編み物の

精緻な 空間が 午前の ひかりの なかで

なごやかな シラブルに 響くのを とおく 聞いた





忘れていた きょうは 日曜日

きみは はやく ぼくの 病室に 来て くれる

外の かおりを たくさん つれて

公園の 噴水の 水しぶき を

メトロの 振動 を

市場の 喧騒... そんな 魚や 野菜や くだものが

バスケットを 弾んで 転がって 黙って ゆく





静まる 繭に また もぐりこむ ひとつの シラブル...

“ あっ N さん から メールが 来た ”

“ 遅く 起きた ばっかりで めしでも 食いに いこうかな... ”

だって

ぼくは おかしくて 笑って しまった

それは なんだか 日曜日 だった から

N さんは ぼくたちの 知り合いの 若い詩人 で

ギター弾くひと で セールス・マン だ

彼の 起き抜けの 感覚が 牧神の 吹く 角笛 として

あたまに 響いて 残りの夢 を めぐった





“ メールに 返事したら ひるごはんに ここまで 来るって

  もう! 電車に 乗ったって “

“ え ? ぼくは 面会 できないんだよ ”

“ いいよ わたしと 食べるんだから ”

と きらきら 魚や 野菜や くだものやらは

ひかりの 巻き髪を して 転がり 出て いった





ラ・ボエーム だなあ 足どり 軽いなあ

かるい足 なんて あだ名の 役 ジェフ・ブリッジス が

映画で 演じていたな あれは 良かったな

なんて とりとめも なしに 時は こぼれて...





また 幸福の王子の つばめの ように きみは 来て

絵のない絵本の 月の ように 語る

……………

詩人が ぼくに たくさん 本を もって 来て くれた こと

築地 だから おすしを たべた こと

朝ごはんの お昼なのに ビールを おいしそうに

ぐびぐびと なんでもない ふうに 飲んでいた こと

そうして ひとりで 勘定を 払って くれて

握手を して 瓢然と 街角に 消えて いった こと





...ぼんやり もらった 本の ページを 繰り ながら

ぼろぼろだった 空に 純水で できた 廃都に

ひかりに ぶれず 影に おののかない

おおきな 背中が いて 笑っているのを 感じた

こしかけて 手にした 綿毛の たんぽぽを

ふと ふく と... まいあがった 綿毛たち に

きみ やら いちまつの かなしみの かおりを 残した

N さん やら ぼく やら が 乗って いて

ふわ ふわ くる くる

おりたり のぼったり 翳ったり 晴れたり...

すると それは 三枚の 新葉 あるいは もっと たくさんに

ずっと 忘れられた 日曜日や 病窓に つどって ゆれた













自由詩 詩人の日曜日 Copyright モーヌ。 2006-05-26 16:13:43
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