急いでキスして
右肩良久

 パラダイスが弱っているよ
 ああ、早くしないと
 早くキスしないとみんなダメになってしまう

 夕焼け雲の形をした船は沈み
 トカゲたちの種の命脈は絶えちゃうんだ
 僕はぐったりと射精して下着を汚し
 君の美しさは絶対に報われない

 クレタ島の壁画のパリジェンヌみたいに
 忘却の灰に埋もれるんだぜ
 枝からはカラカラに乾いた林檎が落ちる
 パリスが握った黄金の林檎がね
 ああ、もう二度と何もかも戻らない
 僕は紙くずのように
 風に吹かれて転がってっちゃうからさ
 だから君は今すぐ目を閉じて
 すぼめた唇の先の先までとろけちまいなよ

 ああ、まだ僕らの頭上にはうっすらと
 天使の輪の名残りが光ってる
 空中庭園から溢れたバラの匂いが
 少しだけ君の胸の谷間に染みている
 僕らの思いの草はらを
 まだ野ウサギも跳ねている

 でももう終わりだ
 あと十秒かそのくらい
 僕が
 愛してる
 って言ったらすべて終わってしまうんだ

 わかるよね
 天国って脆弱だからね


自由詩 急いでキスして Copyright 右肩良久 2004-02-17 00:53:41
notebook Home 戻る