おもいで——よみがえる記憶
前田ふむふむ

失踪する雑踏――葬られてゆく錯綜する都会の鼓動が
不整脈を晒している。
失踪する現実――訪れるものは、立ち上がらない
睦言の形骸だろうか。
黒い朝焼けを掴み取るまなざしは、
凍りつく陶酔の血液を覗かせて、
荒廃した失われた時間のなかの、
透明な砂漠のみずうみを、巻き戻されて、泳いでいる。

わたしは、いまは瓦礫となった白い尖塔のあった丘で
かつて、青々とした春を愛でた指先が、
ふたたび、鮮烈な過去を、なぞるように追憶しても、
降りそそぐ残桜の儚い香りが、
無音の軟らかい無機質な映像の芯を、
歪んで茶褐色の荒野に導いてゆく。

過去は、追いかければ、さらに遠い記憶の
偽りの窓に、新たに脚色されて、貼り出されてゆく。
そして、肉体は、削ぎ落とされて
わたしは、白骨のおもいでをむさぼるのだ。

点々と、そして空一面に書き込まれている、
霞みゆく過去が、寒々とした大地のむくろになる。
それは、浮き上がる過ぎゆく灰色の時間の帯。
茫漠とした、うつろい易い空から、
いま、深々とした乾燥した空の臭いが――
溢れ出るひかりの驟雨の固まる声が聴こえる。
群青として眠る空が、
差さない傘を痛々しく踏みつけているが、
わたしの乾涸びた皮膚は、涙で溺れているのだ。

わたしは、墓碑に刻まれた碑文の言葉のうしろで
語りかける、あなたの微笑を含んだ索引と、
あなたの悲しい叫び声として共鳴する、千切られたページを
なんどもなんども、こころのなかで復唱するが
こみ上げてくるのは、津波のように高鳴る、
かなしみの言葉で染まる、灰色の落葉たちだけだ。
影のような感嘆を眺めながら、樹木に隠れていた沈黙の鳥が、
空しく朽ち果ててゆく言葉の欠片を
無造作に啄ばみ、飛んでゆく。

四月の空は、切り取っても、――何度も、
何度も、切り取っても、
いつも、暗闇の色をしている。


自由詩 おもいで——よみがえる記憶 Copyright 前田ふむふむ 2006-05-11 19:30:46
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