緑の扉
石瀬琳々

それは
濡れた樹々の梢に透かし見た
緑の扉
明るい庭先のその扉を夢見る
光と影を刻み憧れにたたずんで
あるいは移り変わる街の喧騒の中に
待ちくたびれて
人知れず錆びついていたあの扉
それとも どこかのアパルトマンの
ありふれた部屋の扉であったかも知れない
その扉を夢見る
いつか読んだ小説のように


その扉の向こうには
蜂蜜色の毛皮のやさしい獣が眠る
初夏はつなつの庭園は濃緑にけむり
さし招くのは異国の少女
すべては幻か
あたかも白昼夢
ただひそかに
深い奈落が待つだけなのかも知れない
過ぎ行く一瞬の人生の中で
渇望していた夢がそこにある
緑の扉
いつか読んだ小説のように


自由詩 緑の扉 Copyright 石瀬琳々 2006-05-05 21:12:57
notebook Home 戻る 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
緑の詩集