緑の扉
石瀬琳々
それは
濡れた樹々の梢に透かし見た
緑の扉
明るい庭先のその扉を夢見る
光と影を刻み憧れにたたずんで
あるいは移り変わる街の喧騒の中に
待ちくたびれて
人知れず錆びついていたあの扉
それとも どこかのアパルトマンの
ありふれた部屋の扉であったかも知れない
その扉を夢見る
いつか読んだ小説のように
その扉の向こうには
蜂蜜色の毛皮のやさしい獣が眠る
初夏の庭園は濃緑にけむり
さし招くのは異国の少女
すべては幻か
あたかも白昼夢
ただひそかに
深い奈落が待つだけなのかも知れない
過ぎ行く一瞬の人生の中で
渇望していた夢がそこにある
緑の扉
いつか読んだ小説のように
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緑の詩集