もうちょっとなんです
ベンジャミン



もうちょっとなんです。


海鳥の白い背中が雲間からこぼれる陽を滑り、調度波の波長と重なるようにゆるやかに漂っているのを見ました。


(白い午後)

波打ち際には、打ち上げられたクラゲがゼラチンの柔らかさを内側に隠したまま陽に焼かれています。


(タンカーと水平線)

右も左もわからないまま進んでゆくのは、地球がまるいからなのでしょうか?それでも、そのときどきの正解と間違いがあることを僕たちは受けとめなければいけません。それは僕たちが常に境界線上を生きているからです。


もうちょっとなんです。


海鳥がまるで風に飛ばされたハンカチーフのように、きっとサヨナラは言わないけれど、僕は少しだけ泣きました。垂直に立ち上る気流のせいで、涙は空へ還ってゆきます。


(モノトーンの夕暮れ)

波打ち際のクラゲはいつの間にか溶けていましたから、もしかしたらもうすでに海の一部になって透明から青色に変わっているかもしれません。それが空の色を吸い込むのは、もう少し後のことでしょうから。僕はあと少しだけ水平線を眺めていよう。


だから
もうちょっとなんです。


あともうちょっとでとても美しい詩が書けそうなんですが、その頃になるともう陽が落ちてしまっているので、すべての境界線はひとつになり、それはとても自然なことなのですが。僕はもう家に帰らなければいけない。


そのとき振り返ると、何かを言いかけて。そして、少し口を開いたまま海と空をしばらく見渡しますが。


僕は砂浜に足をとられながら、いつもそこまでしか辿り着けないままなのです。


また少しだけ
涙がこぼれそうになっても



そこには僕しかいないので
波音だけが哀しく響いています。







自由詩 もうちょっとなんです Copyright ベンジャミン 2006-04-29 07:30:26
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