手紙   ー ルナク ・ 服部 剛 ー  
はっとりごうと素敵な詩友達 〜連詩ぷろじぇくと〜 

風の声が聴きたかった 

新緑の並木道の向こうでは、
アスファルトに杖を落とした老人がうずくまっていた 

僕は見ていたに違いない、
何故彼がそうしていたのか一部始終を 

老人は色褪せた一枚の手紙を、
血管の浮かぶ細い手に握り締めていた 

それが彼の生きている証であり生きてゆくしるべなんだと
僕にはちゃんと分かっていた             

僕は歩いてゆく
胸の内にあふれ始めた潮騒の音を抑えながら
うずくまる老人の後ろ姿の方へ       

たしかに近づいているのだが
同時にはるか彼方へと遠ざかる感覚 

5月の風に唄う木々の葉の中で
近づくにつれて老人の背中は薄れゆき
気がつくと僕は無人の白い浜辺に立っていた  



海をわたる風がまた頬を打って
僕はまた今の僕に還る
明日の記憶をふところに仕舞いこんで 

凪いだ海の上に広がる青空を見上げると 
一枚の手紙が舞っていた        

手紙

もちろん僕は知っている
誰が書いたものかも
そして誰が書かなかったものかも 

投げ棄てた標は
遠き日の夢の過日に今もあり 

いつまでも手の届かぬ場所に舞っている 
あの手紙のように

いつのまに
僕のあごから伸びていた白髪のひげを 
浜辺の風が揺らす 


瞳を閉じる 


細い足が砂の上に崩れる 

潮騒の音が老人の夢を包む 

無人の白い浜辺には 

真っ青な空を仰ぎ 

安らかな寝顔で横たわる

白髪の老人 








自由詩 手紙   ー ルナク ・ 服部 剛 ー   Copyright はっとりごうと素敵な詩友達 〜連詩ぷろじぇくと〜  2006-04-24 12:47:34
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