桜貝
石川あんこ

           
        鈍空から軽い桜貝がほろほろ降ってきました

          小高い丘の上を列車がぽてぽて北にゆく


                
               体躯に突き刺す芳しき大気の、鋭利
 
          表皮の感覚恨めしきかなそれは季節への、実感

         眩暈を誘う透明な頬に薄く生気を滲ませる、車掌

          舞い散る吐息と静寂の手袋 反比例の接点、静白

                霞む光は低空で燃え盛る唯一、淡光
                      
              天空から黄金比を描く時折酷な、寒風
 
       桜貝が冷気を湛えた重厚な敷物に変化する過程、断続

      滑らかな覆面を深く突刺し三次元に伸びる触手の、根幹

       それは桜貝が化粧した大きな冷保存の砂糖菓子、結晶

       何万年前の流星群の屍骸が鈍く生息する一瞬の、永遠

   磨りガラスの溶解を待機する細長き反射の底では微かな、生命

     
          
   
             ある雪国の心象風景です。


自由詩 桜貝 Copyright 石川あんこ 2006-04-22 13:36:45
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