桜貝
石川あんこ
鈍空から軽い桜貝がほろほろ降ってきました
小高い丘の上を列車がぽてぽて北にゆく
体躯に突き刺す芳しき大気の、鋭利
表皮の感覚恨めしきかなそれは季節への、実感
眩暈を誘う透明な頬に薄く生気を滲ませる、車掌
舞い散る吐息と静寂の手袋 反比例の接点、静白
霞む光は低空で燃え盛る唯一、淡光
天空から黄金比を描く時折酷な、寒風
桜貝が冷気を湛えた重厚な敷物に変化する過程、断続
滑らかな覆面を深く突刺し三次元に伸びる触手の、根幹
それは桜貝が化粧した大きな冷保存の砂糖菓子、結晶
何万年前の流星群の屍骸が鈍く生息する一瞬の、永遠
磨りガラスの溶解を待機する細長き反射の底では微かな、生命
ある雪国の心象風景です。