にわとりは鳴く、それも、こう鳴くという
まきび

弟が居間で音読をしている
小学五年生
勉強もそろそろ難しくなってきた
何度も何度もつまづきながら
大きい声で読んでいる

教科書には
四匹の生き物がいた
にわとりコケッコッコー
犬ワンワン
ぶたはブヒヒブヒブヒ
女の子アハハハハ

生き物とのふれあいを描いた
子ども向けの童話らしい

なぜ小学校の教科書は
ゆめばかりをたくさん
語らなければならない少年に
決まってつまらない話ばかり
何度も繰り返させるのだろう

にわとりコケッコ
犬ワンワン
ぶたはブヒブヒ
女の子ウフフ

ああ せんせい
動物たちは死ぬときも
こういう風に鳴きますか

先生は困って
目を伏せた

弟が読み終わり
教科書を置いたので
ある紙の束をそっと
手渡してやった

『蜘蛛の糸』
あくたがわりゅうのすけって言うんだよ
次はそれを読んでごらん
国語のあまりできない弟
人は弟をバカだと言う

おとうと
君はバカなんかじゃない
学校の勉強が合わないだけさ
ほら思ったとおり
あくたがわは面白そうに
読んでるじゃないか

にわとりコケコケ
犬ワワワン
ぶたはブヒー
女の子アハハ

誰が弟を責めたって
私だけはかばってやろう

「ねえ 先生
勉強ってなんで
大事なんですか」

教卓そば
赤く染まった
夕日の中の先生は
困ったように笑ってた


自由詩 にわとりは鳴く、それも、こう鳴くという Copyright まきび 2006-04-20 01:39:34
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