無言の声援 〜同僚のMさんに〜 
服部 剛

音楽好きな老人ホームの所長と 
週に1回演奏してくれるピアノの先生と 
介護職員の僕と 
レストランで夕食を共にした帰り道 
最寄の駅に先生を車から降ろした後 
夜のいた国道を走りながら 
助手席の僕は最近気になっていることを
所長に告げた 

「 同僚の M さんが元気ないんですよ・・・
  去年の夏長年付き合ってた彼と別れてから 
  胸にぽっかり穴が空いてしまったようで 
  毎日瞳はうつ
  仕事でも周りの皆と食い違い 
  心をかたくなに閉ざしています 」 

自宅に近い駅で 
所長の車から降りた僕は 
夜の道路を去ってゆく車を見送った後 
駐輪場に入る 

僕の帰りを待っていた自転車は 
隣で倒れた自転車に寄りかかられ
傾きながらも踏みとどまるように立っていた 

力の抜けた自転車のサドルに手を置くと 
やけに冷たかった 

ハンドルを握り
しっかりと立て直す 

( 大丈夫、君は立てるんだ  

( お年寄りと僕等の過ごす日常に、素朴な天国を創りたいんだ

( 誰一人、今のスタッフから欠けちゃいけないんだ

なだらかな夜の坂道を自転車で下りながら 
数日前「私、もう辞めようかしら・・・」と言っていた 
M さんの声が耳の奥によみがえる 

( 独りきりの君の傍らで僕は
( ゆっくりと自分らしさを取り戻すまで
( 明日も無言の声援を贈り続ける 





自由詩 無言の声援 〜同僚のMさんに〜  Copyright 服部 剛 2006-04-06 23:20:12
notebook Home 戻る