ピンクのハート
ANN
私はピンクのハートを描きます
ハートは口紅で描きました
口紅は全部使い切りました
家の誰かがもったいないって
自分のポーチに入れる前に
あのお店で私は
ピンクの口紅を塗っていました
まだお金も無くて
安い安い口紅です
口紅くらいつけないとみっともない
そう言われて買った口紅です
横で雑誌をめくる上司と
ずっとずっと店の中に居ました
たまにお客さんが来て
「このピーチゴールドは今人気で」
と言わなくてはいけなかったし
誕生石は全部覚えなくてはいけなかった
ただトパーズとオパールの月が
さいごまで良く分からなかった
石や宝石は見てるだけで大好きだったのに
お店に居ると
私は砕け散ってしまいそうだった
そして上司の言葉で本当に
私は砕けて散ってしまった
病床であの上司を恨みました
恨みは私を食い尽くしました
でもあれから何年か経って
あの宝石たちが待っていた誰か
のような存在にいくつも出会い
私は口紅で
ハートを描いたのです
いつかその絵を捨てる日が来ることを
私は知っていて
その日を待っています
それまで悪い血を吐き出しながら
最後の一滴を搾り出して
私は新しい
ちょっと高くてオレンジ色の口紅を
買うでしょう