ピンクのハート
ANN

私はピンクのハートを描きます

ハートは口紅で描きました

口紅は全部使い切りました

家の誰かがもったいないって

自分のポーチに入れる前に


あのお店で私は

ピンクの口紅を塗っていました

まだお金も無くて

安い安い口紅です


口紅くらいつけないとみっともない

そう言われて買った口紅です


横で雑誌をめくる上司と

ずっとずっと店の中に居ました

たまにお客さんが来て

「このピーチゴールドは今人気で」

と言わなくてはいけなかったし

誕生石は全部覚えなくてはいけなかった

ただトパーズとオパールの月が

さいごまで良く分からなかった

石や宝石は見てるだけで大好きだったのに

お店に居ると

私は砕け散ってしまいそうだった

そして上司の言葉で本当に

私は砕けて散ってしまった



病床であの上司を恨みました

恨みは私を食い尽くしました



でもあれから何年か経って

あの宝石たちが待っていた誰か

のような存在にいくつも出会い

私は口紅で

ハートを描いたのです

いつかその絵を捨てる日が来ることを

私は知っていて

その日を待っています

それまで悪い血を吐き出しながら

最後の一滴を搾り出して

私は新しい

ちょっと高くてオレンジ色の口紅を

買うでしょう


自由詩 ピンクのハート Copyright ANN 2006-03-30 01:30:04
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