脱皮
松本 卓也

抜け殻の瞳を眺めると
底に微かな水があった

忘れかけていたのは
例えば同情であるとか
例えば憐憫であるとか
そういう物を拒絶しながら
守り抜いた自己が在って

外側から眺めると
そのどうしようもないほど
滑稽で奇妙な造型は
昨日の僕であり
今日の僕でもある

積み重ねた陽光が少し
前触れた春を淀ませる
小さな息遣いはやがて
抱えている心でさえも
過去に運んでしまうのか

有り触れた想いに触れるたび
目を背ける事を繰り返し
当たり前の事実に触れるたび
口篭もる事に慣れてきた

やがて存在が風化した残骸を
明日の僕が眺めるのだろう
憐憫の嘲笑を浮かべながら
ざわつく街路樹に身を隠して

新緑を待つ事でさえ
時を経る以外の理由を持たない
僕は脱皮を繰り返しつつ
一つ前の僕を哀れむ

底に残る水の意味など
忘れたふりをしながら


自由詩 脱皮 Copyright 松本 卓也 2006-03-28 01:22:54
notebook Home 戻る  過去 未来