お生れなさい
ヤギ
「つまんね人生だったな。」
天使が僕に吐き捨てた。
死ぬのはもちろん初めてだ。
しかし、死んだばかりの人間にはもっと他にかけるべき言葉があるはずだ、と思った。
「えっとさ、死にたてのひとにはもちっとやさしいこと言おうよ。」
「へっ。」
天使とは、かくにガラの悪いものだったのか。
来世に現世の記憶なんて持っていかなくてもいい。
ただこのことは覚えておきたい。
死んだ後、かなりイヤなやつと会わなきゃいけない。だから少し元気を温存して死のう。
気をとりなおして聞いた。
「来世はどうなの?おもろい?」
「つまんね。」
「…じゃ、その次は?」
「つまんね。」
「……じゃ、そのまたつ…」
「あー、うるせ。オマエは次も次も次も次も、どこまでいってもずーっとつまんね人生なんだよ。」
「希望という言葉があります。」
「そして絶望という言葉もあるな。」
絶句してしまった。なんだというんだ。
旅先で撮った記念写真がことごとく人知を超えたメッセージにあふれていたのか。
五年半つきあった彼女にお互いのための前向きな提案でもされたのか。
それだって八つ当たりがひどすぎる。
「…オレさ、死んだ直後でけっこう残念でさ、それでつまんね人生とか言われて、さらに次も次も次も次もずーっとつまんねなんて言われたらさ、立ち上がれんよ。」
そこで天使も少し反省したのか、背中を向けたまましばらく窓から街の明りを眺めた。(ああ、僕は夜に死んだのだ。)
反省して忘れる
君の言葉は至言だったね、ハニー。
「あ…うん、…ひとに生まれ変わらなければ他のもあるよ。」
「どんなの?」
「んーと、モンシロチョウになってサナギの途中で生きたまま寄生されて死ぬやつかー、あとは禁猟区でまちがって撃たれるシカだな。」
「つまんね人生でいいです。」
こうして僕は妥協しながら生まれ変わることになったのだ。