汲む—茨木のり子さんに—
まほし

大人になりたくない と
純粋に逃げ続けた頃は通り過ぎ
大人になれない と
不透明な迷路で行き詰まった頃に
私はあなたの詩にえぐられました


 初々しさが大切なの
 人に対しても世の中に対しても
 人を人とも思わなくなったとき
 堕落が始るのね 墜ちてゆくのを
 隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました


あなたがかつて見すかされた ことばに
私も見すかされて どきんとしました


大人になってもどぎまぎしたっていいんですね
私は人からよく見える道ばかり進もうとしていたから
かえって自らを迷路に押し込めていた
人は背比べをするものではなく
その違いをいとおしむものであり
そして風は こころを外にむかってひらくほど
たえず違う唄を連れてくる きっと……
あなたの亡くなられた二月の気高い空の下
アンテナをふるふる震わせては
今もなおその意味を
ひっそり汲んでいるのです





(参考作品)
茨木のり子「汲む―Y・Yに―」




未詩・独白 汲む—茨木のり子さんに— Copyright まほし 2006-03-01 23:38:17
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