僕の右手には優しさがにぎられている
ベンジャミン

僕の右手には優しさがにぎられている

だから僕は人と握手をするときに右手を使っている
僕は右利きだから右手に優しさをにぎっている
それは誰かに優しい気持ちを伝えてくれる

だから僕は左手を隠している

僕の左手はいつだって人を傷つけられる力を持っている
だから僕は左手で自分の顔を殴る



衝動に突き動かされた心は
操縦のきかない飛行機のように
衝動に突き動かされた言葉は
どうしょうもなく汚い言葉で誰かを傷つける



だから僕は左手を隠している
だから僕は左手で自分の顔を殴る

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(ご注意)

「医師の指示に従って正しくお飲み下さい」
「お子様の手の届かない場所に保管して下さい」



僕の右手には優しさがにぎられている

だから僕の右腕にはナイフの傷痕が残っている
(それって自傷癖っていうんだよ)

だから僕の左手はいつだって人を傷つけられる力を持っている
だから僕は左手を隠している
だから僕は人と握手をするときに右手を使っている



衝動に突き動かされた心は
操縦のきかない飛行機のように まるで
思いもよらない方向へ飛んでしまう
僕の左手から溢れたものは
ありあまる力で誰かを傷つけようとする



だから僕は握手をするときに右手を使っている
だから僕は犬や猫を撫でるときに右手を使っている
だから僕はいつも左手を隠している
だから僕の右腕にはナイフの傷痕が残っている
だから僕は誰かを傷つけないために左手で自分の顔を殴る
だから僕の右手は優しさをにぎっていられる
だから僕はいつも左手を隠している
だから僕は僕の右手で握手をしてくれる人を探している
だから僕は僕の優しさを信じたいと思っている
だから僕はいつも左手を隠している
だから僕はいつも左手の衝動を怖れている
だから僕は僕が優しくあるための言葉を右手で書く
だから僕は僕の右手に自分の優しさを感じられる
だから僕はそれが本当の自分だと信じたいと思っている


だから僕は
少しだけ言い訳をする

だから僕は
心の底では謝り続けている


左手を隠したまま


僕の右手は

また
優しい言葉を書こうとしている


僕の右手には優しさがにぎられていることを
いつも


確かめようとしている





自由詩 僕の右手には優しさがにぎられている Copyright ベンジャミン 2006-02-28 03:50:08
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