againstantrain
haniwa

三分で考えた詩なんて
一秒と持たない
次から次へと電車は来る
それに乗ろうとおおいそがしだ

吉野家とすき家どっちがうまいか なんて
その場しのぎにしたってひどすぎる話題を
ぼくらはずっと 繰り返していた
10年前のあの日から

カップラーメンが茹で上がるまで
せめてそれだけの時間 手をつないでいたい
けれどそれでも遅すぎると言って
ウィダーインゼリーを歩きながら飲む
インスタントな朝食
インスタントな栄養補給
インスタントに作られた音楽を
インスタントな音質で聴きながら

いつだって満員電車の中でバランスをとりながら立ってる
生きるのに必要なものをすべて有線で補給している
栄養 音楽
   話題 愛情
      友情 仕事 生活 経済
断線したらすべておわりだ
倒れるわけにはいかない
倒れるわけにはいかない
倒れるわけにはいかない
倒れるわけにはいかない
きみの顔が 日に日に怖くなっていく


くたびれたスーツと同じような顔をしている中年男性は考えている
赤いセロファンを駆使して全ての文字を幻視しようとしている女子高生は考えている
優先席の前で立ち尽くしている杖の老人も考えている
ティッシュ配りのバイトを終えて喉をからしたお姉さんも
笑いすぎて笑えなくなってしまった男の子も
つねに背後が気になって仕方がない女の子も
三分で考え出されたようなキャプションの中吊り広告も じつは考えている
手垢でべとべとになったつり革だって
iPodも ウヲークマンも ぼそぼそアナウンスする運転士も

この地下鉄が 長いトンネルを抜けて
どこか 蒼い海か草原のようなところにたどり着いてしまえばいいと


そんなしみったれた電車に乗り遅れまいと
今日も走るきみのために
つぎは 五分で考えた詩を贈ろう
その詩の中では 自動改札機の前でダンスを始めたり
プラットフォームで歌ってみたり
階段の途中で前転してみたり
線路も電線もないのに電車が走ったり
家族みんなが自分の飛行機をもっていたりする
きみはそれを二秒で破り捨てるかもしれない
あるいは 改札口でタップくらいしてみるかもしれない

次の電車が来る前に
僕はそれを考える必要があるのだ
ぼくらが子供じゃなくなってから
そろそろ11年目になろうとしている


自由詩 againstantrain Copyright haniwa 2006-02-24 22:37:37
notebook Home 戻る  過去 未来