二月のバラッド
狸亭


明けても暮れてもジューセンいかにせん
つついてもつついても藪の中 悪い奴ほどよくねむる
背広とネクタイきちんとしめての総力戦
おれのせいじゃあないおれだけはと生き残る
だれもかれも似たようなしぶとい面してはびこる
いまや不動の大地なく理想の青空なく人間の倫理もない
寺田透も逝った司馬遼太郎も逝ったとうろたえる
めぐりきた五十八回目の誕生日はなんともはや味気ない

生きてる奴が信じられないこりゃいかん
祖父母の時代へ父母の時代へとセピア色のヴェール
の彼方海の彼方雲の彼方いざ還暦の彼方へと赴かん
不忍画廊の没後五十年林倭衛展最終日の真昼
「爆発するただ一瞬があればいい」二十三歳のエクリチュール
正面から「出獄のO氏」に見据えられどうにも切ない
半世紀前の時空をよぎった緊張がいまもおれを責め立てる
外に出れば「さば味噌煮定食」六五〇円のひるめし埒もない

むすめにつれられ市民体育館で減量に挑戦
血流をきれいにするという高電位治療器に座ってみる
アライスイギョウ写真展「夕日の詩」を見て酒のんで終電
日本全国の日没ばかり追いかけてきたカラースヴニール
めぐりきたおれの夕暮れ家族にかこまれてのむ黒ビール
新橋ガード下の安い床屋も来月は値上げをするらしい
(しびとていしびと)天彦五男『鴉とレモン』青春のカクテル
狸亭偽詩人田貫諦市『タレー』私家版のものぐるい

だれもかも似たようなしぶとい顔してはびこる
いまや不動の大地なく理想の青空なく人間の倫理もない
寺田透も逝った司馬遼太郎も逝ったとうろたえる
めぐりきた五十八回目の誕生日はなんともはや味気無い



自由詩 二月のバラッド Copyright 狸亭 2004-02-02 12:17:29
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