「大人」が消えていく。
腰抜け若鶏
人間誰しも年を重ねるごとに知恵をつけるものだ。
全くの未知なる世界のことが少しずつ分かってくる。
大人達の作り上げた社会のことが少しずつ分かってくる。
小さい頃、大人は全員が「大人」だった。
大人はみんな仲良しで喧嘩なんてしないものだと思っていた。
まさか大人が他の大人を軽蔑していたり、大人の中に力関係があったり、
馬鹿みたいな決まりがあるとは思ってもみなかった。
その昔、僕は小説家に憧れていた。
小説家は本を書けば印税が入ってきてそれだけで生活ができるし、
賞をとればみんなからすごいと褒めそやされるし、
あわよくば教科書に名前が載って学校で生徒全員に教えられる。
そんなとびきり格好いい仕事だと思っていた。
でも、だんだん色々分かってきた。
小説を書くのは、書かなきゃいけない人とはどういう人間なのか。
現実が思うようにいかなくて欲求不満ばかりが溜まって、
それをノートに書き殴り、お前らいつか絶対見返してやるぞって。
年に何回か飲み会を開く親戚一同。
昔はみんな仲がよくてみんなで楽しくお酒を飲んでいるんだと思っていた。
父はいつも帰りの車の中で酔っぱらいながら何かをぼやいていた。
その話に関心を持ち、何を言ってるかはっきりと分かるようになるまでは。
父と母は昔、「大人」だった。
一体周りの大人からどう評価されて、どう接せられているのか。
どういうタイプの人間で若い頃はどういう生活をしなければいけなかったか。
たくさんの人を見て、たくさんの人と出会い、だんだんと見えてきた。
僕の中から「大人」が消えていく。「大人」は幻想だったのだ。
そして僕は今、子供達に「大人」として見られている。