くそみそ
虹村 凌

 ガラリ
と店の戸が開く。主人は何かを作っていた顔を上げ、愛想の良い笑顔を浮かべる。
「らっしゃい!」
見たことの無い客だが、やはり客が来てくれるのは嬉しい。
「お客さん、何にします?」
客はしばらく御品書きを眺めていたが、やがて顔をあげると、
「特制味噌汁」を指差しながら、こう言った。
「鯖の味噌煮と、この特製味噌汁、それとご飯は男盛りで」
「あいよ!」
主人は勢い良く返事すると、早速準備に取り掛かった。
色々と調理をする一方で、主人は特製味噌汁の話を始めた。
「お客さん、これはウチの店だけの、特製味噌を使っててね、
そら他の店じゃ出せないような味の味噌汁なんですよ。」
客は顔を上げると、不思議そうに主人の顔を見た。
「お!お客さん、興味ありますかい?それじゃあ話させて戴きやしょう。
そもそもこの味噌は、日替わり味噌なんですわ。日によって味が違う。
今日の味噌の原材料は、えぇと白米、たくさん、うめぼし、
それとカブ、鮎、塩、それらを赤味噌に混ぜ込んだんでありやす。
どうでしょう?美味しそうでしょお客さん!」
主人は目をキラキラさせて喋り続けた。
すると、奥の戸がガラっと開いて、子供が顔を出した。

「とうちゃん、それって昨日の晩御飯でしょ」


散文(批評随筆小説等) くそみそ Copyright 虹村 凌 2006-02-18 05:04:47
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