さらば静寂
吉岡孝次

明るい時刻に帰れることもあるから
一人暮しは悪くない
許されて 晴れて許された僕は
席を立とうとする冬の空を見上げる
傷めてしまった膝も今日は軽い
人がいなければ人の世はかくも清々しく
帝政ドイツで「断章」を意味した花粉が舞っていても
この景色はどちらかと言えば水に似ている
僕が 絶妙なタイミングで放り出された町
凡庸な比喩も切り詰めなくていい
過ぎ去るべき「時」も今は散らされている
言葉を覚えるくらいなら調子よく
コートの中に逃げ込んだほうがいい
そのほうが気も利いていて
寒くもない
こんな静けさを
取りこぼすことも ない
それでも顎の下 空気に曝された喉は喜んでいる
「ありがとう」の一言は余計だし
そういうのはもういいから
追わずに 添いとげてやれ


自由詩 さらば静寂 Copyright 吉岡孝次 2006-02-14 21:50:02
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