てぃんさぐの花
まほし

私の父は沖縄生まれだから
血の半分は南国のものなのよ
と、言ったら
君は目を丸くして色々聞いてきたね
東京の凍りつきそうな夜に
白い息をふっと吐き出して
私は記憶をたどって常夏の話をする
うちの庭のユリやゴーヤのことや
黒砂糖がおやつだったこと
民謡も教えてもらったよと言ったら
君は知りたいと言うので
照れくささを感じながらも
懐かしい歌詞を口ずさんでみる


てぃんさぐぬはなや ちみさちにすみてぃ
うやぬゆしぐとぅや ちむにすみり


指先に息を吹きかけたら
爪が薄紅色に染められたように熱い
カサカサと両手をこすったら
君が何か言いたそうに見つめるので
私は唇をどうしたらいいか分らない
私と君は、友達
私が彼と別れたのを電話で告げたときは
ひどく落ち込んでいるみたいだった君も
もう彼のことには触れなくなった


てぃんぬむりぶしや ゆみばゆまりしが
うやぬゆしぐとぅや ゆみやならん


東京では星は
指折れば数えられるけど
街灯りの下の家々の物語は
どんなに指折っても数えられない
私と君は街灯りの隙間を縫うように
お互いの明るい輪郭ばかり見つめてきたけど
私が独りになったときから
(ひょっとしたら独りになる前から)
見えない指先を伸ばし
傷には触れないように
お互いの身体の奥まで確かめ合おうとして
思わずにはいられなくなった


私と君だって血を分けた子どもが産める可能性を



君が唇を開く
私の胸で種子が弾け
土に着かないまま
暗闇に燃え上がるように
赤い熱帯魚のような花が咲く
てぃんさぐの花が
ひとつ、またひとつ、咲いていく――



自由詩 てぃんさぐの花 Copyright まほし 2006-02-09 06:10:25
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