寓話 不可解な死 43
クリ

彼は鼠を飼っていました。名前をデルと言いました。
昼間はポケットに、寝るときはベッドのわきに、いつでもデルを傍らに置きました。
デルは何度も危機を察知して彼を救ってくれたからです。
動物には、迫っている危機、災害を予知する能力があると言われます。
デルにもそれがありました。
デルが落ち着かなくなって少し経つと、なんらかの事故や災害が勃発するのです。
それに気がついてからというもの、彼はデルを連れて歩くようになりました。
アパートが火事になって全焼したときも、
乗っていた電車が脱線して多くの死傷者が出たときも、
彼はデルの「予知」によって命を救われたからです。

ある日またデルが騒ぎ始めました。
彼は仕事の途中だったのにも関わらず職場を離れました。
それでもデルはまだ興奮しています。
彼は隣の町に行きました。それでもデルは暴れています。
新幹線に乗って3時間ほどの都市に行きました。
だめです。
彼は思い切って飛行機に乗り、ソウルに行きました。
ポケットの中のデルの興奮は、
フライト中も、そして韓国に着いてからも収まりません。
彼は思案に暮れて、とうとうアメリカに行きました。
デルは狂ったようにもがきました。
彼はその理由を悟りました。
そしてもうどこにも行かず、
もはやぐったりしているデルを掌で包んで、
明るい金門橋からいっしょに身を投げました。

地球が目映く輝いたのは、それから5日後のことでした。




         Kuri, Kipple : 2006.02.07


未詩・独白 寓話 不可解な死 43 Copyright クリ 2006-02-07 01:54:19
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