夫婦の情景
服部 剛

薄明かりの店内に客は僕ひとり 
喫茶店を営む初老の夫婦は
カウンターに並び夕食を食べている

時々片言かたことの言葉を交わすふたり 
幾十年を共にした歳月を物語る
並んだ背中の沈黙

「 なぜ、店の名はジャンヌ・ダルクなのですか? 」

「 十五年前にふたりでフランスへの旅をして 
  日曜の人気ひとけ無いルーアンの街を歩いた時
  西陽に照らされた女性騎士が馬にまたがる 
  ジャンヌ・ダルクの像を見たのよ 」 

空気のように傍らにいる
夫婦の素朴な背中を見ていたら
一年前にひとり旅で訪れた
鳥羽の海に並ぶ夫婦岩めおといわの姿が重なり
ふたりを結ぶ縄がうっすら、視えた。  

静けさの漂う薄明かりの店内で 
木目の壁に掛けられた額縁の絵から 
凛々しく馬に跨る
ジャンヌ・ダルクの瞳が、少し笑った 








自由詩 夫婦の情景 Copyright 服部 剛 2006-02-05 22:00:11
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