キリシタス
馬野ミキ

キリストはキリスト教を作ったりしなかった
彼はただの愛に溢れた大工であった
キリストはよく遅刻したし、仕事にこない日もあった
彼はそんな風に頻繁に約束を破ったが
生まれたての子どもが誰彼と隔てることなく微笑むように
いつも陽気で愛嬌のある男だったので、
親方は彼の笑顔を見ると自分が何について怒っているのかということを忘れた
キリストは女に関するトラブルを度々起こしひんしゅくを買ったが
どの女たちよりも深く傷ついた
彼は体毛が非常に薄く髭を伸ばしたことなど一度もなかったが
すべての彼についての絵画や彫刻には、後世の者たちの
彼に威厳を持たせようというコンセプトにより勝手につけ加えられた
キリストは手をかざすだけで病人を癒すことも度々あったが
調子のよくない時には失敗して死なせてしまうこともあった
十字架を背負いゴルゴダの丘に向かうキリストは道中何度か思いついたギャグをつぶやいた
普通、十字架を背負ってこれから死ぬ奴がそれ言わねえだろ!、というくらい
極めてユーモアにあふれているものだったので誰一人笑わなかった
もし笑ってしまったら、自分たちが信じている世界が台無しになってしまうからだ
実際彼は数年ぐらいなら飲んだり食ったりする必要は無かった
世界中の至るところに栄養が満ちているということをキリストは薄々知っていた
キリストは痩せこけて十字架に吊るされたりしていなかった
彼は十字架で一人ふくよかで血色もよかった
ただ人々は痩せこけたキリストのイメージや、そうして手を合わせて俯いたりすることを愛した
彼は国中で最もふくよかで血色がよいまま七年間十字架に吊るされた
それはあまりにもイカれた一つの風景であった
彼はやっぱりただの愛に溢れた大工だったので
三日後に復活するようなことは有り得なかったが、
ただ何人かが彼が死んだ三日後に彼のギャグを思い出して笑った
それから人々は、この忌々しい事件を忘れる為に彼を神に仕立て上げた
全員一致で殺した人間に最高の栄誉を与えたのだ
つまり権力者も奴隷も村人も聖者もすべてグルなのだ
これが神という概念のはじまりである-


自由詩 キリシタス Copyright 馬野ミキ 2006-02-01 00:51:08
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