民謡

行きつけのラーメン屋兼居酒屋、久留米の親父さんは
酒が回ってくると
いかつい顔を、ほころばせながら
五木の子守唄を歌う癖がある
いつもの寂れた店内の
やたらと綺麗な朱色のカウンターの上に
つ、ついっと並べられる 小皿の中身
どれもこれも
素材を活かす為の、薄い味付け
しんなり茹で上がっている山菜たちは
親父さんの歌声が染み込むことで
極上の、肴になる
野太い子守唄だけれども
すうすうと
小皿の上、小さな寝息を立てている


たまには他のも歌ってよ、と
会津磐梯山やら
炭鉱節やら
酒が回れば回るほど
親父さんのレパートリーは数を増す

決まって最後には
でんでんむしの歌になるのが不思議なのだが
お茶漬けみたいな清涼感で
何故なのだろうか、聴き入ってしまう
だけれど、ここで気を抜くと
下手すれば また、
五木の子守唄が 始まってしまう



そんな夜には諦めて
私も小皿の上に 眠ることにする


親父さんの勧める酒には、不思議とハズレが無いから
水のように呑めるから
私もふやけて しんなりとなって
親父さんの歌声に包まれて
極上の 肴になる



親父さんは 獏に似ている
酔い潰れてしまう間際
いつも そう思う











五木の子守唄が、じんわりと脳裏に染み込んで行く








自由詩 民謡 Copyright  2004-01-27 20:56:48
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