沈む車 〜イタロ・カルビーノ風
クリ

さて、今あなたは、運転する車ごと橋の欄干をぶち破って、1メートル落下し、水に浸かってしまった、
としよう、突然だけど。

怪我はない。一安心。最初、車はプカプカ浮かんでいる。
しかしすぐに浸水し始める。あなたは脱出しようとする。

ドアは開かないのだ。水圧で。
もしウィンドウを、目一杯開放していたのなら、あなたは幸運だ。そこから出られる。
もし閉めていたのなら、どうする。開けよう。

開かないのだ。電動だ。浸水したらたちまち、窓は開かなくなる。
その他の電気系統一切合切は沈黙する。
フロント・ガラスを蹴破るか?
これがなかなか割れないのだ。

何よりも、いまやあなたの視界いっぱいに、エアバッグが広がっている。身動きもままならないのだ。
浸水するにつれ、エアバッグはますますあなたを圧迫し、水のせいでますます動きがとれなくなる。
最後の望みは、車内が完全に浸水し、外と中の水圧が等しくなったとき、
ドアは開く、ということ。

その時、あなたの意識と体力がまだあれば、と仮定して、だが。


未詩・独白 沈む車 〜イタロ・カルビーノ風 Copyright クリ 2004-01-27 02:49:26
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