幼い手つき
石畑由紀子


父の指にあわせて
ピアノがアカペラで歌う
大胆なくせに不安げなその歌声が
休日のリビングからご近所にも響いてしまって
父はますます手のひらに汗をかく

父よ
バイエルの14番から
ワルツ・フォー・デビィまでは
これまでのあなたの人生のように
まだまだ長い道のりのようだ

それを聴きながら母は
ひっそりと思い出していた
お見合いしてからひと月後
はじめて頬に触れてくれた時の
あの指先のぎこちなさを

愛しさが伝われば
旋律など気にせずに
ピアノはきっと嬉しそうに歌いだす
いつか父の下で母が甘く歌って
そうして私が産まれたように






自由詩 幼い手つき Copyright 石畑由紀子 2004-01-27 00:35:21
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