忘れ花
こしごえ

いつのことでしたか
忘れてしまいましたが
絶句したその無言の先に
あの日がちらついていたのは、確かです

日溜りの微笑む
静けさのなか
涙は花ひそめ
無表情に泣いていました
それはかなしさのためでもなく
翼が、陽に透けるのに似ています
空の耳に声は届いたろうか

つくしの胞子で星星をなぞらえるように
あなたの後ろ姿がしんとそよぎ
凛とした目に映る風の遠いこと
手に手を重ね
海溝に泳ぐ魚のいかにも無音なかたち
その唇からもれた刹那
わたしは、鳥となりました無数に

星が宿るというのは本当のことです
またひとり、またひとりと風に染まり
いちども空は落ち果てません
(雨は、帰るのです)

わたしの目には
今でも空が映っているだろうか
風のなか、花が咲く







※忘れ花=忘れ咲きの花=時節がすぎてから咲く花。
その時でないのに咲くこと。また、その花。かえりざき。





自由詩 忘れ花 Copyright こしごえ 2006-01-20 13:06:01
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