灰と黒蟻
黒川排除 (oldsoup)

 暑い日だった。どうも影が黒い黒いと思っていたら、蟻が群れていた。蟻は集団でいながらまるで一匹であるような挙動で蠢いていたが、しばらく放っておいても害がなさそうだったので放っておいた。蟻は蟻の言葉で会話しているようだった。時折向かい合ってじゃれあったりしている様子は微笑ましかったが、次の日には足しか残っていない事の方がわたしには現実だった。蟻は蟻の方法でやっているのだろう。移動すると必ず付いてくるのもいわば彼らの方法なのかも知れない。
 ある日一匹つまみ上げて、影の外に出してやった。すると蟻は急にもがきだして、素早い歩みで、影の中に戻ってきた。それで今度は段差のある所から下におろしてみた。最初はうろたえ、もがき、足をじたばたさせていたが、やがて観念したかのように動かなくなった。死んだのかと思ったら、じゅう、という音がした。焼けて灰になったのだ。わたしは急な現象に驚いた。目の前の死に対するより驚いていた。半袖でいる事は何より恐怖だった。しかし、定められた範囲を放り出されたら自分だってただでは済むまいと感ずる事が一番の恐怖だった。灰は穴を掘って埋めてやる事にした。そしてわたしは奇怪な悲鳴を上げた。ここはとうに掘られた穴の底だったのだ。


自由詩 灰と黒蟻 Copyright 黒川排除 (oldsoup) 2004-01-26 01:56:39
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