バベルの塔
和泉 誠

天界の曙光が降り注ぐ
神と呼ばれた禁断の領域を目指して

どこまでも高く積み上げた
万物を知り尽くした賢者の瞳
現世には存在しない輝かしい英知
運命と呼ばれる糸を操る人形遣いの横顔

遥か遠方より来て
また彼方へと去っていく
世の常を知り尽くした愚者は
驕れる王を笑った

バベルの塔だ

王よ 
頂上からの眺めは
さぞ素晴らしいことだろう
遥か彼方まで見渡せよう

だが王よ
お前は何者だ?
背には翼でも生えているのか?
人の手により生まれし塔は傾いているぞ

聡明な王よ
お前はその運命を
虚飾の塔と共にするか?
同じ言葉を解す唯一の仲間と共にするか? 

今はこの崩れかけた塔を去ろう
だがいつか
いつかこの壮麗なる美空をも貫く巨大な塔を

まどろみの中に見た夢
その影を追う理由など
疾うの昔に忘れた

ただこの覚めることなき情熱だけが
漆黒の焼き跡をこの心に刻み
私をこの世界に繋ぎ止めている信実があるだけ


自由詩 バベルの塔 Copyright 和泉 誠 2006-01-18 18:55:30
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