いくらなんでも歩きながらは・・・
大覚アキラ

うちの近所に、やたらと犬のフンが転がっているエリアがあって、
そこを通る時は、かなり足元に注意を払っていないとえらいことになる。
街灯もないので、夜なんかは特に要注意だ。

昨夜もそこを通って帰宅したのだが、歩きながらふと、
大学時代に付き合っていた彼女のことを思い出した。

  かれこれ15年程前のことだ。
  神戸は三ノ宮のセンター街を、彼女と二人で歩いていた。
  時刻は夜10時すぎ。
  店もほぼ閉まっていて、人通りはかなり少ない。
  彼女は、何かの話しに夢中になっていて、
  一生懸命ぼくに何かを話していた。
  ぼくは「うんうん、なるほどね」などと相槌を打ちながらも、
  ぼんやりと前方を見て歩いていた。

  と。

  5メートルほど前方に、犬(?)のモノとおぼしきフンが、
  ドカーンと転がっているのに気がついた。
  このまま行くと、おそらく彼女は見事にそれを踏むだろう。
  だが、彼女は話に夢中で、
  そんなことに気付いている様子は皆無だ。
  かなり気を遣いながら、タイミングを見計らって立ち止まり、
  ようやく彼女にそのことを切り出した。

  「あのさ・・・」と、ぼく。
  「なに?」彼女は話の腰を折られて、やや不機嫌だ。
  「あの・・・ウンチが・・・」
  「えっ? したいの?」

  ちがーう!! なんでやねん・・・。

  「いや、そうじゃなくって・・・」
  「もしかして・・・出ちゃった・・・?」

  あのなぁ・・・おれは、いったいどんな生き物やねん。
  犬でも歩きながらはしないでしょう。おれは金魚か。
  つーか、アンタはどういう男と付き合ってるつもりなのだ。


はたして、あの頃のぼくは、彼女に人間として認められていたのでしょうか?


散文(批評随筆小説等) いくらなんでも歩きながらは・・・ Copyright 大覚アキラ 2006-01-18 13:51:46
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