七月のバラッド
狸亭


長谷川七郎八十二歳の詩集『もうおしまい』
くもり空の伊豆高原で祝いの酒宴をはった
そこには詩人のぶあつい生の風景が舞い
夏の夜はたのしい談笑のうちにふけていった
女流反戦詩人の膝枕はやわらかかった
心臓かいならしながらロシアンスクランブル
よろよろと二十世紀をとびつづけていった
たかい背丈がいまもぼくらの詩魂をゆさぶる

その七月の下旬格安エジプト航空のせまい
座席におしこめられてのマニラ経由だった
バンコク スラータニととんでいった愚昧
タピー河から快速艇にのって海上レガッタ
ヨーロッパ大衆なみのいっぱしのプチブル
きどりでもないが空には阿呆鳥が舞った
とほうもない永遠のような海風が頬をなぶる

サムイ島再訪楽園でのむシンハビールは旨い
ゴールデンサンドビーチリゾートオペレッタ
バンガローの屋根をおおう椰子の葉千枚
シャム湾のゆうぐれはあかるい無為だった
砂浜にねころんで『アタラ』にふけった
ひとおよぎしてビールをのんであらぶる
『ルネ』のとおい昔の時代にひたった
淡雪のようなヤーをだいて目をつぶる

黄金の砂海岸 海の微風 カンツォネッタ
闇にうかぶしゃれた名前がファッショナブル
意味のわからぬ人声がときに波音にまじった
コ・サムイの日々はまさに無為のリーブル。


自由詩 七月のバラッド Copyright 狸亭 2004-01-25 09:55:00
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