(幾つもの)ある午後
石畑由紀子

  +

忘れていたことすら忘れていたのに
嗚呼、忘れていたことを思いだしてしまった
思いだしてしまったことをいつかまた忘れられるだろうか




  ++


花の絵を描いていた。

ら、

絵 よりも
パレット のほうが
綺麗な色彩になっていて

ほおづえしながら なんとなく見とれて
ちょっと すねた。




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「夜遊びを昼間のうちに済ませてしまったクリムトは
 未だ恍惚境の余韻に浸るモデルの股間を前に
 今度こそきちんと仕事にとりかかる
 デッサンは洞察力と勢いが命だから、と
 モデルのしどけない眼差しが正気に返る前に一枚描き上げて
 三時のお茶の時間がくるまでに
 今一度 その豊満なクッションの中に潜り込んでゆく
 最愛なるエミーリエに次はどんな服をデザインしてやろうか、なんて
 考えながら」

あの頃のあの人に出会えた白昼夢
恋人に肩を噛まれて我に返る




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三等身の影を連れた道の途中で
犬の散歩の老人とすれ違う。
犬がいることで成立する
見知らぬ人との無言の微笑み合い。




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ケサランパサランはフワフワと舞うばかり。私の手のひらを巧みにかわす。まるで言葉のように、さも愉しそうに。
(そうやっていつまでも裏切られていたい気がする)




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夜も昼も知っている月が
あなたのように笑う。
私は安心してその下で笑う。

自転車に乗って緑の風になる午後。






自由詩 (幾つもの)ある午後 Copyright 石畑由紀子 2004-01-24 23:41:12
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