シチュエーション〜片道きりの切符
阿麻

一、

あなたは私の言うなりに
深い沖へと オールを
漕ぎ出だす
大風に巻き込まれる一艘の小さい船にゆられて
片道きりの切符

私はささやきかけ続ける

「天国はあたたかいわ」って

光る水面(みなも)に、ふるえ
風の悪霊におびやかされそな
むらさきに凍えた 唇を
あたためるように
やさしく指でなぞりながら

私はささやきかけ続ける

あなたは私の言うなりに
無言のまま・・・オールを漕ぎ続け
やがてあの崖が波に飲まれてゆく

なぜか一枚しかない
片道きりの切符


二、

あなたは私の言うなりに
みじめな死にざま 隠すため
私を狙おうとして
ピストルを向ける

震えきったその掌から放さないで

一枚しかない 片道きりの切符

私はささやきかけ続ける
「天国で暮らしましょう」
木漏れ日に くらまされそな
目と目で
私はささやきかけ続ける

あなたは私の言うなりに

引き金をはじく 
木々の緑がモザイク状に分かれてゆく
風景とともに
わたしは地へとくずおれる

薄れる意識のなか 
うすい紙切れが 
ひらり 宙を舞う

やはり一枚しかない
片道きりの切符



自由詩 シチュエーション〜片道きりの切符 Copyright 阿麻 2006-01-10 09:09:01
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