選ばれし歌
吉岡孝次

守るべき君主はいない 少年の夏を照らした城下町にも

高い波蹴飛ばし歩く夕暮れにあによめとなるひとは手を振る

好きな娘の前では翼を折り畳む 仲間が傍を通り過ぎてく

受賞式当日なにもない沖をずっと見ていた 灰を流して

最強の九紫火星の男さへ病む冬の夜の雲は動かじ

冬の日は偽善までもが美しく響き一人を空と爭ふ

「もう誰も憎むな」歩み遅くして神の言(ことば)を抱きしめている

天と地の柔和な間隙(はざま)にたぷたぷと水たゆたへる創世の午後


短歌 選ばれし歌 Copyright 吉岡孝次 2006-01-09 22:15:42
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