非常階段
霜天

いつも通りの要素で朝が構成されている
人、人、赤い車、通り抜ける頭、髪の流れる、緑色の、人
見知った他人の中で何かを忘れているようで
振り返っても気付けない
ここでは、何かが足りないまま流れて

少しの風が大勢になって
人の、僕の横の空欄を選り分けていく
肩先の余白、初めて気付いた顔のまま
みんな、どこかで消えていくことができる
ちょっとそこまで、潜り込むようにして


扉を開ければ
いつもそこまでだった
懐かしい世界の夕暮れる気配がして
まっしろなビルの、部屋の隅の
堅い堅い扉を開ければ
垂直にそびえる空の下
消えていく人が、いた


毎朝の、軽い眩暈を
いつもの珈琲のせいにする
ここでも、何かが足りないまま流れて
気付いても、気付かないように、それぞれに滑り込んでいく
誰も分かっていたはずの世界の、零れる音を聞きながら

みんな、どこかで消えていくことが、できた
静かな挨拶を、軽く手を上げるようにして


自由詩 非常階段 Copyright 霜天 2006-01-09 01:21:00
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