コーダ
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渋谷駅がたくさんの路線を孕んでいるように
台風がくれた季節に生まれた俺とか
小さい秋に生まれたでっかい奴とか
記念切手の景色から生まれた奴とか
エスカレーター縦に並んだ各種生き様
それを端から読みあげていくような弱い好奇心
なあ俺は何万もの出会わない人たちとすれ違いながら心臓で泣くんだよ
たった何センチかの生命線から繋がるループ
例えばティッシュを配る22歳大学生蟹座の呟くような願いだ
ただこのティッシュを受け取って下さい
ただこのティッシュを受け取って下さい
それを叶えるのはつまり俺やお前や彼や彼女
その価値ある右手はティッシュを受けようとひらいたのか

お前よ上を見てみろよ
嵐がくるよ
嵐がくるよ
嵐がくるよ
風がそんな感じで吹いてるよ
お前には聞こえるか

街路樹が一過する風にすがりつくよ
いかないでと手をのばして追うよ
でもお前よ
突風は風速でしか生きてゆけないんだ
今朝整えた髪をばさばさとかきあげ
通りすぎてゆくだけなんだよ

蟹座ティッシュは嵐の中声をあげる
僕のティッシュを受け取って下さい
僕のティッシュを受け取って下さい

書き割りみたいな景色を跨ぐ
巨大な交差点で消失点が消える
そしたらお前なんか息の仕方すら忘れるぜ
だからお前、俺から離れてはいけないよ

ティッシュを受け取って下さい
ティッシュを受け取って下さい
ティッシュを受け取って下さい

手を繋いで収束するループ
エスカレーター並んで息を切らして心臓は鳴る
お前が小さな声で何度もそれこそ何度も最初から繰り返している歌
その果てしないコーダがエスカレーターに轟き
生まれ死にゆくループ
やがて雨ざあざあの窓ごしに
生と性の正当性を祈る


自由詩 コーダ Copyright --- 2006-01-07 07:09:35
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