ドラマを観ていて考えた事
和泉 誠

金田一耕助は、
はたして自分が小説の主人公だと思った事はないのだろうか?

あまりにもよくできた巡り合わせ。
きっと彼はそれを疑うことなく
現実として受け止めているだろう。
彼にとって目の前で次々と起こる殺人は紛れもない現実で、
その謎を解くのは紛れもない本人の意志。

誰かが金田一耕助という主人公に謎を解かせているとは
彼は夢にも思わない。

優れた文学作品とは非常にリアルに作られている。
細部まで精密に本物そっくりに。
人間の複雑な思考回路までそっくりに。
もしも自分がその作品の登場人物であっても、
違和感を感じない程精巧に。
しかもそれらは一昔前を舞台にしている事が多い。

ここからは空想だ。
実は自分は誰かが作った物語の主人公なのではないか?
誰かって誰?
たとえば少し先の未来人。

20世紀末から21世紀初頭を舞台にした
それは精巧に作られた仮想世界。
魔法チックなら誰かの書いた小説の一小節。
SFチックならコンピューターのプログラム。

僕はちょっと前にペットショップで
大きな水槽に入れられたたくさんの金魚達を見た。
「あ、金魚だ。かわいい」
小さな女の子が張り付いた。

金魚はまさか自分達が人間の作った檻の中で
泳いでいるとは夢にも思わないだろう。
彼らはきっと自分達が自由なんだと思っているだろう。
そう、あるいは僕達と同じように。


未詩・独白 ドラマを観ていて考えた事 Copyright 和泉 誠 2006-01-06 23:45:59
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