ハーケンクロイツ
馬野ミキ

幹さん詩の朗読を教えてください
というメールがさいたま県草加市の女子高生から来たので
月曜に池袋で待ち合わせた
新宿のMARZで見たのだという
体験したのだと!
つまり、既におれを知っている君が
ぼくをみつけて
イケブクロウのまえで
挨拶をするきみの声とことばと
もしかしたらこれから
きみのことをよく知るようになるかも知れないぼくのおれの瞳。
「はじめまして」
『こんばんわいん』
歌広場でダッフルコードを脱ぐきみ
密室に吹くそよ風
暗がりに小鹿
紺のハイソ
ノンアルコールカクテル
神様ヘルプ
めまい
玩具のミラーボール
暖房を調節するきみのパンツがもう少しで見えそうになる
これは何なのか?
まじなのか?
俺にもチャンスが来たのか?
光は?
加護は?
「歌手も目指しているのでボイストレーニング教室に通ってて複式呼吸は出来るんです!」
『複式なんて関係ない!男なら単勝一本で行け。内臓に頼るな、全身で毛穴で呼吸するんだ!』
「幹さんそれって超おもしろいですね!毛穴式呼吸ってどうするんですか?」
『瞳を閉じて自分のなかの悪魔と神様をぜんぶ信じるんだ、世界の創造に立ち会ったことを思い出せ!』
でも幹さん少し休憩しましょうよ。

俺たちはテーブルに向かい合うように座り彼女は携帯で誰かと話しはじめた
彼女はロンリーチャップリンを知らなかったのでおれ一人で歌った。
それから俺はビールと熱燗を注文した
詩の教室だ、
そのようにやらなくては。
冷たいものと熱いものを交互に高速で繰り返すのだ。

60cm目前で膝を組む無防備な制服の女子高生には魅力がある
彼女は相変わらず携帯でおしゃべりをしている
ゴムの骸骨と桃色のハーケンクロイツのストラップが揺れている
揺れるナチス
俺は生を一気飲みしてから彼女の携帯を奪い取り
『キスしよう』
と、いった

彼女は二秒後に泣いてしまった


自由詩 ハーケンクロイツ Copyright 馬野ミキ 2006-01-06 19:05:32
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