初夢の青年
服部 剛

年が明けてから まだ太陽を見ていない
外にはただ 冷たい雨音

静かで薄暗い正月


神棚に手を合わせたら
そろえた足元の床がへこんでいた

町では偽装建築のマンションが
ゆるい地盤に立ち並び

マンションの影の通学路で誘拐され
夢のような短い生を終えた少女の霊は
うつむいたまま雨空に浮かび
雨の降る町をながめている 

凧揚たこあげや羽根突きをしなくなった子供達
家の中で小さいゲーム画面を手にしてつぼめた肩の上にも
一人につき数百万円の国債がのしかかっている

夕食の味噌汁に浮くねぎの輪切りさえ
遠い異国の畑に頼り
世界の中で空洞化する
この島国には
年が明けてもが昇らない 

初老の夫婦がひとつの傘に身を寄せて
なまり色の海の波打ち際を歩く頃
古びた一軒屋では
薄暗い部屋を照らす電球の下
結婚を考えない長男が
数杯のお屠蘇とそに酔っ払い
股を広げて
幸せそうな赤い寝顔でいびきをかいている 

夢の中
ましろい空間に立つ彼は
いつまでも待っている

大切な誰かにわたす花束を抱えたまま 





自由詩 初夢の青年 Copyright 服部 剛 2006-01-06 15:28:40
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