初夢の青年
服部 剛
年が明けてから まだ太陽を見ていない
外には只 冷たい雨音
静かで薄暗い正月
朝
神棚に手を合わせたら
揃えた足元の床がへこんでいた
町では偽装建築のマンションが
緩い地盤に立ち並び
マンションの影の通学路で誘拐され
夢のような短い生を終えた少女の霊は
うつむいたまま雨空に浮かび
雨の降る町を眺めている
凧揚げや羽根突きをしなくなった子供達
家の中で小さいゲーム画面を手にしてつぼめた肩の上にも
一人につき数百万円の国債がのしかかっている
夕食の味噌汁に浮く葱の輪切りさえ
遠い異国の畑に頼り
世界の中で空洞化する
この島国には
年が明けても陽が昇らない
初老の夫婦がひとつの傘に身を寄せて
鉛色の海の波打ち際を歩く頃
古びた一軒屋では
薄暗い部屋を照らす電球の下
結婚を考えない長男が
数杯のお屠蘇に酔っ払い
股を広げて
幸せそうな赤い寝顔で鼾をかいている
夢の中
ましろい空間に立つ彼は
いつまでも待っている
大切な誰かにわたす花束を抱えたまま