息継ぎの音階
かぜきり

震えの奥底から湧き上がる泡沫をとても羨んでいます/

月夜の波間にて、 浅い息継ぎを繰り返しながら仄かに輝く海を泳いでいます
何時も誰かの手を握っていないと浮かんではいられなくなってからというもの
水面を見つめる距離はとても近くになってしまいました
空から注ぎ来る月明かり語る歌がどのようにしてか私を責めている様で五月蝿くて仕方が無いので
歌声に負けないように笑うのもいたし方がないと口の端を上手にひきあげてみました
笑顔の模型を脳裏に掲げていなければ笑えなくなってしまったような焦燥を
表皮の裏に集めてしまいます 月光のあふれるところのくらやみ
たえまない感覚が薄ら寒さに覆われてゆきます
陰陽のすげ替わる一瞬
すべては川面に流れる墨文字のような伴奏の気配を始めました。

息苦しさの前兆でしょうか

ぜぇ はぁ。
合いの手の息継ぎをそっといたします


今夜も、浅い息継ぎを辿り繰りながら滑らかに蠢く海を泳いでいます
何時も誰かが前にいてくれていないと前方へとかき進めなくなってからというもの、
周りの人との距離の近さが、水を解さぬ接触のようにたまらないものになってしまいました。
流れを取り巻く人いきれはとてもにごっていて生ぬるく
私がその一部であることを無闇に嫌悪したくなるほどに
粘着質で。しかしてそれはやすらぎにひとしく。
そのことを苦い笑いと入れ替えてしまいたい。
笑い顔の所作の方向を思い浮かべながらも笑顔はこうであったかなと
見知らぬ人との不意の接触に笑顔らしきものを浮かべていたことを
記憶の軽はずみからせせりだして
無為に笑ってみせる。観客の気配はどこへいったのやら。
笑顔のフォーメーションを組みはじめる顔の筋肉たち。
彼らも目的を忘れてしまったようだ
沸きあがる失笑はとりあえずの意、これでよかったのであろうかと
聞こえ続ける合いの手であり、私の声でない無色な欠伸。
体温が抜け落ちる一瞬
星空がまたたくのは私が爪弾いているからでないのは何故でしょう。

吊り下げられた着ぐるみへの第一歩か

すぅ はぁ
合いの手の息継ぎをそっといたします


今夜も、息継ぎは浅く、暗闇を振り仰ぎながら泳いでいます
ときには、深く潜ってみようと愚考をふりかざしてみたくなり
激しく、疾く、命の階を揺さぶろうと
深呼吸を真に真に心のあろうはずの場所、墺なる場所に溜めて
境が見境なくなるほどに定めを撓めてみます
奥へ奥へのほうへと潜ってみたのです
掻き回された人の怪しさのスープの中
長らく浸っていたはずの触覚を分離して
不意を装い途切れることを許してしまえば、と促し
イミテイトノイズをここに自生させることを了解し
疑惑の剣閃をここ(胸をとんと)にむけて
鎖が血であることを手招きする帰結を了承し、
上擦った裏声のように
けたたましく突き刺さることが
雪崩るにまかせてしまう

所属する己への愛唱。
とぎれた曖昧さ。

了承されないのは溶けた水面は暗い夜ではないからでしょうか。
思考が虫食いの誘惑にまけて。
無様にも、もがきながら浮上してしまう。
誰も掴んでない足に、手形が浮かびあがります。
(とても無様で誰にも見せられぬ姿です)

ぜぇぜぇと息も荒く、薄くなった存在を
一生懸命とりもどそうとし続けます。
どうしても潜れないのでしょうか
どうしても潜れないのでしょうか
息継ぎが 接げません

ぐるりと辺りをみまわしてこたえをさがしてしまう
ぐるりと周りを見渡してこたえをさがしてしまう
ぐるり見回して辺りから答えを拾おうとしてしまう

見つからずに見つかったのは
わたしが何時も見ている同じ眼
る。
吐きそうにな、る。

潜れないのですか。
こころがすぐれないのですか。
何かを取り外して持ち替えているのですか。
眼に問いて。
問わずに交わした視線は無い物をないものとしてねだるさみしさの遠吠えなのでしょうか
まなざしの輪唱、そしてわらい落ちゆく波紋の不和
ふ と、同じ眼がまぶたの裏であることを受け入れることを強要されたように憤慨します
幼さに受け皿を移す一瞬。

思い出したかのように息継ぎを浅く 浅く ふりはらうように 浅く。

うたをかえましょうか
どなたのこえにこたえましょうか

とぅーどぅー。
夜降る雨の水面は暗いです。

慌しいね、と浮き上がってくる泡沫を見つめがら今夜も泳いでいます
とても濁った水面を
薄めた視線で冷やかしながら
ここで泳ぐしかないのでしょうかと
バシャバシャと水音を激しく波打たせています。
誰も教えてくれない潜り方と向き合うことができないうちに
何時か見た鏡像と再びまみえるのは頂けない。と感じます。
笑い飛ばそうと自分を茶化してみます。
浅い息継ぎの度に窺いの笑みがついてゆきます

滑稽な音の連続が消失を震えへいざないます。
息継ぎのリズムを定型へと差し出します。
変色が聴衆を欺くよう塗りなおします。
重ねた音色の底を跳ね返す記憶を曖昧にします。
音色に隠れたのは誰でしょうか。

慌ててゼイゼイと喘ぐのは息をしているものです。
ぽつりと水面から夜空を仰いだのはそのものです。
水面は濁っています
夜空は月の蝕をかかえています
波間に雑じるのは小枝でしょうか

嘆息混じりの息継ぎを
二度だけ。

可笑しさはそこになくとも
笑い声がただ刻まれたよるのそらに挟まっていきます。

ふるえのまんなかから湧き上がる泡沫をとても羨んでいます

少しだけ長くなった(と誰かに言われました)
息継ぎをしながら
今夜も泳いでいます(およいでいます。およげてるのかな。)

見渡しても繋がらないその深い呼気を
自らたぐる必要性を
どこからともなく訪れることを
期待しているのことを
触れないことを
問わず問えず問いかけられず
不をかぞえていることを
かぞえています
ああ、すこし量が足りないようです
すこしだけ

満ちた砂



うたをかえましょうか

いえ

わたしが
うたいましょうか

合いの手の息継ぎを

いいえ

やはし
己で
うたいましょうか
月夜の姿をそのままに
なぞらえる事を
そっと堪えて


自由詩 息継ぎの音階 Copyright かぜきり 2006-01-05 11:34:02
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