即興曲 変ホ長調D
アマル・シャタカ

その美しい横顔も
輝くような肉体も 一つずつはぎ落されて
衰えるという一言で 君の心は揺れ動く

ピアノの鍵盤を見て 白と黒
世の有様は裏と表で

裏だけでも 表だけでも世界はない
鍵盤の白と黒を弾く指先で 世界に音色を贈るように

視力が衰えれば それは不便だ
しかし 見なくて良いものを見なくてすむようになる
僕がそうなら 君の声だけを誰よりも 美しく耳で捉えられるだろう

視力を失っても美しい音色を失わなぬ奏者は多い 
鍵盤の色など そこではもはや意味を持たず それと同じで

耳や声 容姿を失いながら人は絶望の淵に身を沈める
残された魂が 輝きを増すために
人は生まれ変わる
絶望の洗礼によって

全盛期を過ぎ 聴くに耐えぬ姿になっても
弾き続ける君の魂が 多くの人に輝きを 勇気を与えられるというなら

失うということは 得るということ
持たざる多くの人々の心に降りていくということ

ピアノの白と黒の鍵盤 
教えてくれるのは
君が上手にピアノを弾くことではなく
弾ける喜びを噛み締め 生きる喜びを噛み締めるとき

世界が変わるということなのだから


自由詩 即興曲 変ホ長調D Copyright アマル・シャタカ 2005-12-23 02:41:17
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