愛しいひと
恋月 ぴの

愛する事は容易いけれど
愛される事は難しい
肩触れ合うほど僕が君の傍にいても
うなじの後れ毛に見とれていても
僕の愛に君は気づかない


たとえばそれは硝子越しの口吸い
感じるはずの柔らかな温もりは
ショーウィンドウの冷たさに遮られ


愛とはひとりよがりの雪景色
はらはらと身悶えては
静かに散りゆきてはらり


愛を与える事は容易いけれど
愛を受けとめる事は難しい
背を向けた僕の無常に涙を流す
君の嗚咽は切なく悲しくとも
僕には君の愛を受けとめる事は出来ず


たとえばそれは冬桜の美しさ
凍てつく浮き世を堪え忍び
人知れず墨色の渓谷に咲き乱れ


愛とは狂おしくもあり切なくもあり
音もなく降りしきる牡丹雪は涙の重さ
泣きぬれて待ちわびて白き闇に漂いて舞う


朧気な愛の汀を彷徨えば
再び出逢う事の無い君への追憶
膝下まで凍えた白い溜め息は
止むことの無い逡巡のかたちだから
丸く悴む背中に聞こえくる
ヒールの音は愛の幻
コツコツと賛美歌聞こえくる街路に響き


I wish you a Merry Christmas
僕の愛しきひとよ


自由詩 愛しいひと Copyright 恋月 ぴの 2005-12-16 06:57:42
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