北風の工場
ベンジャミン

今日も遠い北のはずれでは
北風がつくられている


私は妹の手をとって歩きながら
「ごらん、あれが北風だよ」と
すり切れそうな雲の端を指さして言う

すると雲は
少しずつ形を変えながら
ちょうど雪ウサギのような耳になって
少しだけ妹を喜ばせてくれた

おそらく妹は
今から自分が連れて行かれる場所を知りたくて
ときどき後ろを振り返ってみせたのだろうが

私は妹の手をとって歩きながら
「北風は北風の工場でつくられるんだよ」と
もっともらしく話して聞かせるのだった


大きな鉄の板が
自動機械の歯車で動かされていて
それがバタン、バタンと
トタン屋根が叩くのと同じようなリズムで
北風をつくっているのだと

妹の小さな手は
しっかりと私を握っている

さっき指さした雲が消えてしまっても
お互いの手の内に守られた
このわずかな温もりのために


今日も遠い北のはずれでは
北風がつくられている


そんな話を思い出すとき
風はいつも向かい風なのだけど

そのことを妹にさとられないように
私は他の雲を指さして

「ごらん、あれがお兄ちゃんだよ」と

妹の顔が一瞬ほころぶのを
大事そうに見つめていた



       


自由詩 北風の工場 Copyright ベンジャミン 2005-12-16 01:43:19
notebook Home 戻る