羽と手
木立 悟




手のひらのなか揺れる手のひら
波のかけらを抄いあげると
しずくは双つ微笑んで
仲たがいを終えた羽
海の光に照らされて


風は強く
雪をけしてつもらせてはくれない
ひとつひとつ鎖を飛び越え
吹雪またたく砂浜に出る


肌を越え 肌を越え
羽は飛び 羽は飛び
冷気のむこうの音へと昇り
遠く境の色へと至る


午後の霧の手
泡立つ音を見つめつづけて
ひとつの紅い雲となり
遠去かる鼓動のかがやきを聴く


見知らぬ命は波の下に
もうひとつの波のように流れている
人の衣をまとっては
砂浜を歩くこともある
月夜に涙を流しながら
うたを歌うこともある


揺れのむこうに生まれ出るもの
ふるえのむこうに落ちてゆくもの
待ちつづけるかたちの網にではなく
ふと差し出される渦にあるもの
いとしさのなかへと船出するとき
ともに櫂を握るひとつ手
冷たく熱く握るひとつ手


音も無く 静けさも無く
降りつもる細かなざわめき色に
うすく目をあけ 手をのばし
ふりかえらずとも見える髪の陽
まぶしくふちどられる羽のかたちの
あなたの星海にからだをひたす










自由詩 羽と手 Copyright 木立 悟 2005-12-12 17:06:56
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