形見
こしごえ

得た と思うと同時に失う

林檎の皮を剥いていく
螺旋が皿に垂れていく
果物ナイフに映る甘いかおりに
私は涙を告げる

何も動揺することはない
唇はかすかに震えているが
芯は蜜を湛えて
黄金色の時を流れてきたのだ

しゃりしゃりと噛み砕く細胞の
終着点は私だったろうか
止まらない
意識のゆらぎのなかで生れ合せた
私は
いつまでも円を咀嚼し続ける点

林檎はしれっと
皮と
芯に眠る種をのこした

育てよう





自由詩 形見 Copyright こしごえ 2005-11-25 10:00:19
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