人は夜に音になって
霜天

人は夜に音になって
躓かない程度に囁き合うらしい


朝が夜に向かうように
ページを手繰り寄せる
薄い絵の具を
筆の先で伸ばすように心音を
澄ませていく
夢を見る、ことを覚えてからは
僕は僕に近づけたかもしれない


人は、夜に音になって


心裏、寒空、時々の晴れ
完結するはずの小説は
最後の言葉でいつまでも終わらなかった
終わらせたくなかったのは誰なのだろう
その裏側で世界を思う
吸い込まれていく夕焼けを思って
燃えていく朝を思い出す
すべては夜に包まれて
時計は回転することを、やめられない
終わらせたくなかったのは、誰
だったんだろう


人は、夜に

どうしようもなく静かで
目を閉じればざわざわと音がする
どこよりも深い想念の底
こんなにも遠い朝の裏側
耳をふさげば
懐かしい声がする



人は夜に音になって
いつまでもそこで聞き飽きないでいるらしい


自由詩 人は夜に音になって Copyright 霜天 2005-11-25 00:44:47
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