偏差値
たもつ

丘の上に立って色の無い偏差値について語ろうとすると
バナナの風が熱帯雨林の方角から吹いて
学習ノートの文字は穏やかに飛ばされてしまった

間違えることなく世界にはたくさんのリビングがあって
たくさんの人々が正確に呼吸の真似事をしている
その隣にある誰もいないリビングでは
僕らの不在を告げる回覧板がドアノブに揺れている

リモコンのチャンネルは誤って押された
つけっ放しのテレビでは水浸しのワイドショーが始まった
自転車は補助輪をなくして二回目の角を曲がりなおも曲がろうとした
先生、と呼ばれて振り向いた
その人は先生ではなかった
それでも僕らが先生と呼び続けたので
いつまでもその人は行間で振り向き続けなければならなかった

採点簿には美しい悪口が綴られ
誰もいないリビングの裏庭からは子犬の落下する音が聞こえる
その速度はついに僕らの成長する速度を追い越し
犬小屋は意味の無い記号の渦の中に何度も生まれようとする
やがて司会者の事件は偏差値で終わり
リビングの人々は次々に別れの号令を叫んだ




自由詩 偏差値 Copyright たもつ 2005-11-22 17:51:26
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