みどりに みどりに
木立 悟





はいいろ
ぎんいろ
雲の上に
雲がのるいろ
錆びた欄干がぱらぱらと曲がり
きんいろとむらさきいろを抱き寄せて
ゆくあてのない歩みを照らしている


置き去りにされた水から立ちのぼる
いろを持たない思い出や
誰にも尋ねることのできない音が
待つもののない顔をして
森の向こうを見つめている


棄てられたみどりは野に沈み
ふたたび花に生まれる日まで
静かな水草の時をすごす
滴を滴のままつまむしぐさを
水の底にくりかえす


ひとときの細いひらめきから
手のひらの傷から川は生まれ
幾つかの標を流し去り
大きく離れた両岸の火を
海の裾まで連れてゆく


握るでもなく ひらくでもなく
双つのみどりの手のひらは
互いの願いに溶けあって
草の踊りと歌の輪のなか
降りてくる空を見つめている


雨と雪のはざまの中庭
地の高さが
屋根の高さに変わる午後
羽は羽のかたちにあふれ
水を巡る道を飛ぶ
分かちがたいうるおいの道を飛ぶ


いろは染みこみ いろは消えゆき
目の奥に肌に髪の毛に
みどりだけがぽたりと残る
選びたくないのに選んだ指の
涙のように ぽたりと残る


光をわたすものの手は
光をかえすものの手は
傷から生まれる川をふちどり
それは遠い手紙となって
ひとり歩むものの想いを
みどりにみどりにしたためてゆく









自由詩 みどりに みどりに Copyright 木立 悟 2005-11-21 17:55:06
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