へろへろランナー 〜 いつかの僕との伴走 〜
服部 剛
昨夜の飲み会で終電を逃し
駅前のネットカフェに泊まり仮眠を取った
リクライニングの個室で夜明け前に目が覚めて
出勤時間よりも一時間早く職場に着いたので
シャワーを浴びた後
休憩室の畳の上に横たわり
寝過ごさぬよう手にした腕時計を胸にあてて瞳を閉じると
脳裏に備わるスクリーンに
今朝の出勤風景が映し出された
〜
窓から朝日の射すバスの中で
賑わう中学生に交じってバスを降りると
真白い月の浮かぶ青空の下
校庭では早朝練習をする野球少年達の揃って響くかけ声に
ふと立ち止まりネットの網目越しに彼等を見つめた
二列になってランニングする最後尾に
補欠がひとり へろへろと 息を切らして走ってる
あれは 長い間消えかけていた いつかの僕だ
遅いなりに皆についていこうと
ワンテンポ遅れたかけ声を絞り出している
振り返れば
社会に出て間もない頃
「明日は無い・・・」と悲嘆に暮れた日々さえ
くじけそうな僕の傍らにはいつも
補欠だった いつかの僕 がうっすらとした姿で
へろへろと息を切らして走り続けていた
ネットの網目越しに
頼りなくもなんとか皆についていく後ろ姿を見送ってから
再び僕は職場へと向かう
( 朝日に照らされて
( たわわに実のついた柿ノ木の枝に
( 一匹の雀が小躍りしながら舞い降りた
今日という新たな一日へとくぐり抜ける
職場の門へと続く一本道を
昔より少し強く地面を踏みしめ
不思議な力を胸に蓄え歩みゆく僕の傍らを
うっすらと消えない姿で走り続ける いつかの僕
懐かしいかけ声を空に響かせる
初冬の澄んだ空気に ひとつ 白い吐息が昇った